広島高等裁判所 平成7年(ネ)194号 判決
1 「右の認是事実によれば,控訴人は,A局長から,台風19号による被害の復旧工事の処理を担当するよう命じられたのであるから,右工事の処理を行うにつき,法規や被控訴人の内部規則に従って適正を期すべき責任があったところ,控訴人にはS建材,Oガラス本店,M電材等の業者に工事を施工させるにつき,必要な決裁の手続を経ず,また,M海上からの保険金収入及びこれによる工事代金の支出についても,決裁の手続を経ず,これらにつき,適正な会計帳簿を作成しなかった違法があることは明らかである(私立学校振興助成法14条1項違反,学校法人会計基準2条違反,被控訴人学園決裁規程3条違反)。」
2 「右の認定事実によれば,控訴人には,本来,リースの対象とならない消耗品を対象としてリース契約を締結するようにBに指示をして被控訴人とJクレジットとの間でその旨の不適切な内容のリース契約を締結させ,また,被控訴人の工事代金を調達するために架空のリース契約を被控訴人とJクレジットとの間で締結させるなどして,適正な会計処理を行わなかった違法があることが明らかである(私立学校振興助成法14条1項違反,学校法人会計基準2条違反)。さらに,右のような不適切あるいは違法なリース契約が合意解除されたため,被控訴人をして一時に多額の金員の支出を余儀なくさせて被控訴人の会計上に混乱を生じさせ,また,右解約時の残リース料よりも多額の解約金を支払うことになったことにより相当額の損害を被らせたものと認められる。」
3 「右の認定事実によれば,控訴人は,勤務時間中に,事務局の事務所で,コンピューターゲームをするなどその勤務態度にはルーズな面が見られ,上司の了承の下に行われていたにしても,事務室に寝泊まりするなど,これを自室のように使用しており,部下職員に対する関係でも公私を混同したとみられる面があったものと認められる。」
4 「就業規則(53条,54条)には,教職員に対する懲戒処分として,戒告,減給,停職又は免職の処分をすることができる旨規定されており,右の各処分には軽重の差があるが,懲戒事由に当たる行為をした教職員に対し,どのような処分を選択すべきかについては,その情状により行う旨規定されているだけで,その具体的な基準は規定されていない(<証拠略>)。ところで,懲戒権者(被控訴人の理事長)が右懲戒処分を選択するに当たっては,懲戒事由に該当する行為の態様や,その原因,動機,状況,結果等諸般の事情を総合考慮した上で,被控訴人の学園の秩序維持を確保する見地から相当な処分が選択されるべきである。そして,右就業規則には処分の選択基準が定められていないことからすると,右処分の選択には,裁量が認められているものと解すべきであるが,その裁量は恣意にわたることはできず,処分と当該行為との間で著しく均衡を失するなど社会通念上合理性を欠くものであってはならない。特に,免職処分は,被控訴人の職員としての地位を失わせるという重大な結果を招来するのであるから,これを選択するについては,他の処分の選択に比較して慎重な配慮を要するものと解すべきである。
本件について,まず,控訴人の懲戒に該当する行為の有無,その態様及び結果について検討するに,処分理由1については,控訴人には,台風19号の復旧工事を担当するに当たり,工事の施工,保険金収入及びこれによる工事代金の支出につき,決裁の手続を経ず,これらにつき,適正な会計帳簿を作成しなかった違法(私立学校振興助成法14条1項違反,学校法人会計基準2条違反,被控訴人学園決裁規程3条違反)があり,処分理由2については,控訴人には,消耗品を対象とするなどの不適切な内容のリース契約を締結させ,また,被控訴人の工事代金を調達するために架空のリース契約を締結させるなどして,適正な会計処理を行わなかった違法(私立学校振興助成法14条1項違反,学校法人会計基準2条違反)があり,結果的に,被控訴人をして一時に多額の金員の支出を余儀なくさせて被控訴人の会計上に混乱を生じさせ,また,右解約時の残リース料よりも多額の解約金を支払うことになったことにより相当額の損害を被らせたものであり,処分理由3については,控訴人の勤務態度にはルーズな面が見られ,部下職員に対しても公私を混同したとみられる面があったことは前記認定のとおりである。
そうすると,控訴人には懲戒に値する行為があったものというべきである。しかしながら,処分理由1の事実についてみれば,控訴人には,決裁手続をとらなかったことについて責任があるものの,適正な会計帳簿を作成しなかったことについては,その第一次的責任は経理の責任部局である経理課長にあるところ,その当時,C経理課長は,復旧工事の費用が保険金で賄われることを認識しながら,このための経理処理をすべきことを失念していた(この当時,A局長,控訴人ともこれを失念していた。)ことからすると,経理処理がされなかった責任を控訴人にのみ負担させることには疑問がある。また,控訴人が,Hワークを保険金請求について元請的な立場に置いたのは,保険対象外の工事についても保険金で賄い,被控訴人の工事費の負担を免れることにあり,Hワークに不当な利益を得させることにあったものではなく,また,これにより被控訴人に損害を与えたものとも認められない。次に,処分理由2の事実については,控訴人が,消耗品を含めリースとしたのは,備品等をできるだけリースを利用して調達するというE理事長の方針を逸脱して運用し,このため,被控訴人の会計上に混乱をもたらし,結果的に相当額の損害を与えた責任は免れないが,Hワークに不当な利益を得させるためにリースを行ったものとは認められない。また,消耗品の購入や階段教室の工事費について適正な経理処理が行われなかったことについては経理課長にも応分の責任がある。さらに,処分理由3の事実については,控訴人の勤務態度などが右認定の限度で学校職員としての適格性を欠いた面が見られるものの,被控訴人のこの点についてのその余の主張事実は認定するに至らず,その勤務態度が劣悪であるとまでは認められない。これに加え,控訴人は,被控訴人に長期計画推進室長として雇用されたものであるところ,右室長としての業務の遂行内容に特段の問題があったとは窺われないこと(控訴人の勤務態度についての認定判断は前記3のとおりである。),また,学園施設の保守,管理,資材の購入の直接の責任部局は管財課であるところ,その当時,管財課長が空席であったために,管財業務に精通しているとは認められない控訴人が復旧工事や備品等の購入といった管財業務の責任をも負担することになったが,被控訴人の当時の内部組織上,これに対する十分な監督,指導,助言の体制がとられていたとは窺われないこと,右処分理由1,2による懲戒処分を控訴人のみが受け,これに応分の責任があると認められるC経理課長や,法人事務局の責任者であるA局長には何らの懲戒処分もされていないことをも勘案すれば,被控訴人が控訴人に対し,懲戒処分として免職処分を選択したことについては,当該処分事由とされた行為と処分内容との間で著しく均衡を失したものであって,社会通念上合理性を欠いたものというべきである。
したがって,控訴人に対する本件懲戒免職は無効である。」
5 「以上の次第で,その余の争点について判断するまでもなく,控訴人の被控訴人に対する雇傭契約上の権利を有する地位にあることの確認,未払給与金253万1072円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,平成5年3月以降毎月21日限り給与金63万2768円及び右金員に対する当該月の22日以降各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容すべきであり,控訴人の請求を棄却した原判決は不当であるから,これを取り消した上,控訴人の本訴請求を認容する」。
(第2部:金子順一裁判官)